2017年5月22日 (月)

取り調べ

 
 
逮捕され被疑者になると、国選か私選のどちらかで弁護人を立てられるのは前述した通りです。
 
私の担当になる国選弁護人は、逮捕された翌日に留置場へ面会に訪れました。
 
 
まずは私から事故に至った経緯を簡単に説明しました。弁護士はメモを執りながら一頻り (ひとしきり) 聞き、不明な点があれば私に質問をぶつけます。そして一通り説明し終わったあとに弁護士の口から出た言葉は、
 
 
「納得できないことがあれば、絶対に調書にサインをするな!」
 
 
ということです。
 
 
この言葉の意味を最初は全く理解できなかったのですが、取り調べが続くうちに段々と明確になっていきました。
 
 
 
 
警察での取り調べは担当の警察官と被疑者の二人、完全な密室で行われます。被疑者の供述は取調官が全てパソコンに入力していきます。 
 
 
具体的には、いつ・どこで車に乗り、どの道を通って事故現場に向かい、どのくらいの速度で交差点に進入し、どのような状況で事故に至ったか。そしてどこで信号を確認し、交差点進入時に信号は何色だったか。またブレーキは踏んだか。
 
さらに被害者はどこから来てどこへ向かっていたか。事故直後にどのような行動をとったか。目撃者はどのくらいいて、その時の自身の心境はどのようなものだったか。
 
など、取調官の質問に合わせて逐一答えていきます。
 
 
この問答がとにかく長い!
 
 
パソコンの入力もブラインドタッチで慣れているようですが、一回の調べだけで何時間もかかります。
 
 
特に問題なのが、口語を文章にした時の違和感を解消するプロセスです。
 
 
私のように長い文章を綴ってブログを書いている人はよくお解りでしょうが、言葉というのは本当に難しい。口では簡単に言えることでも文章にしてみると思いの外堅苦しく、意図しない誤解が生まれるケースというのが少なくありません。
 
 
私自身ブログで長文を書き連ねる時には、とにかく何度も読み直して不適切な表現が無いかを確認してからアップします。それでも文章の読解力は人それぞれですから、読んで不快な思いをする人もいるでしょう。
 
ただ、それはもう仕方ないと思っています。人の数だけ価値観が存在する中で、万人に理解してもらえる文章など書けるはずがありません。ですから、私は出来るだけ自分の言葉で想いを伝えられるよう、他人からの評価など気にしないことにしました。
 
そうは言っても、私のブログはペット自慢の自己満足ブログが発端ですから、元々他者へ何かを発信しようと思って続けているわけでもなく、マイペースで淡々と更新しています。
 
 
調書作成も同じで、事故当時の微妙な心境の変化を言葉や態度で伝えることは出来ても、それをいざ文字に置き換えようと思っても、これが容易ではないのです。
 
 
取調官が 「供述通りに作成しているよ。」 と言っても、言葉のニュアンスがどうも違う。しかし私もそれをどう表現して良いか分からない。
 
そんなことが延々と続くのです。
 
 
これは骨の折れる作業です。
 
 
しかも要所で警察に都合が良いように供述を誘導させる 「誘導尋問」 があり、これがまた鬱陶しい!
 
 
 
 
誘導尋問とはどのようなものか、簡単に例を挙げてみましょう。
 
 
 
例えば貴方が書店に入ったとします。
 
 
売り場で良い本がないか物色していた折り、携帯電話に着信が入りました。貴方はすかさずスマホを手に取り店の外へ。
 
しかしここで問題発生。何と売り物である本を手に持ったまま店外へ出てしまいました。
 
店員は 「万引きだ!」 と貴方のもとへ駆け寄ります。そして警察へ通報。
 
貴方は書店の事務所へ引っ張り込まれ、警察が来るまで書店の店員と 「盗んだ・盗まない」 といった問答が続きます。
 
 
そして警察登場。
 
 
うっかり本を手にしたまま外へ出ただけで逮捕というのは、少々大袈裟に感じる人もいるでしょう。しかし刑務所には、万引きを繰り返して実刑を受けている受刑者がとても多いのです。
 
一回の万引きで刑務所行きはありません。大抵の場合、一回目は罰金刑、二回目で執行猶予付きの有罪判決。それでも万引きを繰り返して捕まると、三度目はさすがに執行猶予無しの実刑です。
 
万引きでムショ入りしている人というのは高齢者が多いようです。中には生活に困窮してわざと万引きを繰り返し、意図的に刑務所に入ろうとする人さえいるのです。
 
 
「刑務所にいれば、黙っていても一日三度の飯が食べられる。」
 
「しかも懲役で作業を行えば、少ないながらも作業報奨金としてお金が貰える。」
 
「身寄りがなく、刑務所を出ても行く宛てがない。」
 
 
それが主な理由です。
 
 
 
 
まぁ、飽くまで例えとして挙げている話なので、このまま読み進めていただければ幸いです。
 
 
万引き犯として警察に連行された貴方は、取り調べでこのように攻められます。
 
 
 
取調官 : 「全く、店の売り物をお金を払わずに出てくるなんてダメじゃないか。」
 
貴方 : 「いやいや、盗むつもりなんてありませんよ。ケータイが鳴ったので、電話に出ようと思ってうっかり本を手にしたまま出てしまったんです。」
 
取調官 : 「でもねぇ、いくらうっかりしていたからと言って、商品を持ったまま黙って店を出たら誰だって万引きだと思わないかい?」
 
 
ここで貴方は何も言えなくなるでしょう。
 
 
 
何故なら、取調官は貴方の良心に訴えるように話を繰り出してくるのですから。
 
 
 
 
「盗む気は無かった。でも店の立場からすれば、万引き犯だと思われても仕方ない。」
 
 
これは当然のことだと思います。謂わば常識とも言えます。
 
 
 
 
人間どんな悪党にも、少なからず良心というものがあるでしょう。その良心に響くように、人の心理をうまく利用して彼等は攻めてくるのです。
 
 
 
これが誘導尋問の正体です。
 
 
 
そしてこの尋問は特別なものではなく、ごく当たり前に行われているものでもあります。
 
 
どんなに心を揺り動かされそうになっても、そんなのはただの屁理屈でしかないのだから、貴方は強固な姿勢で 「いや、盗む気は無かった!」 と突き返さなければいけないのです。
 
 
この万引きの例で一番のポイントとなるのは、「盗む気があったのか・ないのか?」 という一点に尽きます。
 
 
 
当人に盗む気がなく、本当にうっかりの出来事であれば罪にはならないでしょう。しかし、最初から盗むつもりでやった行為であれば話は別です。お解りいただけると思います。
 
 
誘導尋問がどういうものであるか、次にもうひとつ例を挙げてみたいと思います。 
 
 

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